漢方のツボシリーズの7回目。今回より、前回紹介した「気」「血」「水」について順番にお話しして行きましょう。
「気」とは目にはみえませんが生命活動を営む根源的エネルギ-で生体内をくまなく巡るもの。その働きの結果は生体の様々な活動として表現されます。
例えば、暖炉の中でよく火がよく燃えて、煙突から外へと流れてゆくとします。
これは、「気」がうまく生成し、うまく循環していることに例えることができます。
東洋医学の解釈で、「気」の異常として次の3つのタイプを考えます。
気が不足している場合、「気虚(ききょ)」
気が停滞している場合、「気鬱(きうつ」
気が逆流している場合、「気逆(きぎゃく)」
暖炉のたとえ話では、
気虚とは、燃える火の量が少ない状態、
気鬱とは、煙突が詰まってうまく外に煙が出てゆかない状態、
気逆とは、煙が外からの風に押されて逆流した状態、です。
<気虚>
だるい、疲れやすい、気力がない、日中の眠気等の症状があらわれます。
気を貯蔵する腎臓、気を取り込む肺、そして食物から「気」をうまく(消化)吸収できなかったことが原因と考えます。
したがって、腎臓、肺、胃腸の働きの回復を目指します。
過度の刺激を控え、体を冷やす食べ物を控え、リラックスするなどして不安感を持たないようにすることです。ため息よりもゆっくり静かに深呼吸。空を見る位、大きく背伸びしましょう。
「気を増す」、「気を補う」が生薬や処方の方向性となります。
◆主な生薬
人参(にんじん)-胃腸の調子を整え気を増す。ウコギ科オタネニンジン、紅参(こうじん)としても著名
白朮(びゃくじゅつ)-気を増し余分な水分を除く。キク科オケラの根(大晦日の京都のおけら参りは有名)
黄耆(おうばく)-気を増し皮下水分をとる。ミカン科キハダの樹皮
甘草(かんぞう)-気を増し肺を潤す。マメ科甘草の根。グリチルリチン(甘味成分)が有効成分。
◆代表的な処方
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、人参湯(にんじんとう)、四君子湯(しくんしとう)、
建中湯(けんちゅうとう)
・小建中湯(しょうけんちゅうとう)-慢性胃腸炎の人、虚弱児や夜尿症の子ども
・黄耆建中湯(おうばくけんちゅうとう)-寝汗をかくような虚弱体質
・当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)-月経痛の強い虚弱体質の人の便秘
<気欝>
気が停滞してしまった状態。抑うつ傾向にあり、愁訴があちこちに移動したりするのが特徴。抑うつ傾向、喉のつっかえ、頭重感、胸が詰まる、しびれ感などの症状が挙げられます。
自然と接する、好きなことを思う存分するなど、それぞれにあったリラックス法で。気持ちを大きく持つように。
「気を巡らせる」「気の滞りを取り除く」が方向となります。
◆主な生薬
厚朴(こうぼく)-気のうつ滞を改善。モクレン科ホウノキの皮樹皮
紫蘇葉(しそよう)-気を巡らし胃腸の調整。シソの葉
香附子(こうぶし)-気を巡らす妙薬とされています。ハマスゲの根茎
◆代表的な処方
香蘇散(こうそさん)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、柴胡加龍骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
<気逆>
一言で言えば、気の循環の失調です。自律神経失調に近いものと考えられます。症状として、冷えのぼせ(足冷え)、顔面紅潮(足冷えなし)、発作性の頭痛や動悸があらわれます。驚きやすく、焦躁感が強いので安静な環境で生活することが大切です。それが難しい人は、自分にあったリラックス法を。
「気を巡らせる」「気の流れを正す」「気を下す」が方向となります。
◆主な生薬
桂皮(けいひ)-気を巡らす。ニッキ(ニッケイ)やシナモンとして、カプチーノ、八つ橋の香りとしておなじみ
紫蘇葉(しそよう)-気を下し、塞を除き、消化を助ける。シソの葉
半夏(はんげ)-みぞおちの水滞を除く。サトイモの仲間の根茎
黄連(おうれん)-熱のこもりをとる。キンポウゲの根
◆代表的処方
苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、黄連湯(おうれんとう)、奔豚湯(ほんとんとう)
(東洋医学研究家、薬剤師 松田昇)
※奔豚(ほんとん);古い言葉ですが、ヒステリー性の心悸亢進、心臓神経症などでみられる激しい動悸を奔豚と表現した。下腹から起こり、咽頭にまで突き上がり、呼吸が止まりそうになるほどの激しい動悸。奔豚湯、苓桂甘棗湯、桂枝加桂湯(けいしかけいとう、桂皮が含まれる)などが処方される。
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