今回は「小建中湯」についてお話します。
この処方はいろいろと応用がきき、あらゆる処方の基本ともいえる処方です。
その成り立ちは今までにお話した中に出てきた基本的な生薬から成り立っています。
「桂枝(けいし)」「芍薬(しゃくやく)」「甘草(かんぞう)」「生姜(しょうきょう)」「大棗(たいそう)」
の五つからなる「桂枝加芍薬湯(けいしか・しゃくやくとう)」という処方があります。
「芍薬」はその性格から少し寒涼
お腹を冷やす傾向があるので、「桂枝」と「生姜」を補助として加えます。
その「桂枝加芍薬湯」に水飴を加えた処方を「小建中湯」といい、腹痛の妙薬とされています。
水飴は古来から弱っている時に力がつくといわれています。
先回、「芍薬」「甘草」で筋肉の痙攣を緩和する働きがあることを紹介しましたが、
この二つの生薬で、お腹の壁が柔らかくて腸管の拘攣のときには痛みも拘攣もとれるという説もあります。
つまり「芍薬甘草湯」は鎮痙鎮痛主体で、そこに腹痛があり、
冷えのある場合にはさらに温める生薬(桂枝・生姜・附子・細辛)で温めることにより痛みを抑えています。
*****
汗の良く出る向きには、「黄耆(おうばく)」を加えて「黄耆建中湯(おうばくけんちゅうとう」が処方されます。
「黄耆建中湯」(黄耆・桂枝・当帰/芍薬・甘草・生姜・大棗)は、もともと華岡青州(はなおかせいしゅう)が化膿性膿瘍を治療する目的で用いたとされています。
また、子宮の痛みなどには「当帰」を加味した「当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)」が用いられます。
「当帰建中湯」は、もともとは出産後に弱ってやせ気味でお腹が痛む時に用いられたものです。
私が好きな処方のひとつで、作用がマイルドなので、出産後に関わらず御婦人方の生理痛や下腹痛、腰痛や便秘症にと広く用いられる重宝な処方です。
「当帰」は血行を良くし、「桂枝」と共に創や膿瘍の治りを早めるとされています。
「当帰建中湯」は、炎症作用の弱い場合の大きな病気の後、出産後、虚弱者の汗が良く出る人、そして出産後の腹痛にも広く用いられているのです。
他にも慢性の中耳炎、痔、骨髄炎等にも用いられます。
(東洋医学研究家、薬剤師、松田昇)