薬局にいますと、意外に多いのが下部尿路疾患です。
漢方の世界ではもともと「泌尿器科」という分科はなく、治療も薬物療法と鍼灸という療法です。
ここでは主に炎症性の疾患についてお話してゆきます。
急性の炎症に対しては東洋医学では淋証といい、熱淋ということも多いようです。
淋とは尿の滴下してゆく症状をいいます。
・気淋とは精神的な頻尿や排尿困難症
・老淋とは老人性の排尿困難
・暑淋とは真夏に発汗過多や脱水による尿濃縮による排尿痛
・石淋・砂淋とは結石性のもの
をそれぞれいいます。
当然ながら急性の場合には抗菌剤が非常に有効ですが、漢方製剤との併用が対症療法として大変有効とされています。
下部尿路の消炎には第一に挙げられるのが「山しし(さんしし)」です。
これに、「黄ごん」「竜胆(りゅうたん)」「黄連(おうれん)」「石膏(せっこう)」を加え、
膿尿等の化膿には「連翹(れんぎょう)」「金銀花(きんぎんか)」などを、
排膿のために「桔梗(ききょう)」「枳実(きじつ)」「芍薬(しゃくやく)」などを加えてゆきます。
そして膀胱の緊張や括約筋の痙攣を緩和させる「芍薬(しゃくやく)」「甘草(かんぞう)」「烏薬(うやく)」「木香(もっこう)」などを加味してゆきます。
薬局で手に入りやすいのが「五淋散(ごりんさん)」と称するもので、
消炎の「山しし」「黄ごん」「生甘草」に
鎮痙鎮痛として「芍薬」「甘草」「当帰(とうき)」、
利尿作用として「滑石(かっせき)」「沢瀉(たくしゃ)」「茯苓(ぶくりょう)」「木通(もくつう)」「車前子(しゃぜんし)」を加えています。
もう一つ「竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)」という処方があります。
これは「竜胆(りゅうたん)」「生地黄(なまじおう)」が配合されているため消炎作用が強く、止血作用もあります。
しかし消炎・利尿・止血作用はあるものの鎮痙鎮痛の働き(芍薬・甘草)をするものがいないため、この処方には排尿痛などに対しての効果が期待できません。
一方、眼や耳の炎症や膣炎、子宮内膜炎、卵管炎などには広く用いられています。
「芍薬(しゃくやく)」「甘草(かんぞう)」を加えると排尿痛や頻尿にもよいといわれています。(芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう))
最後に煎じる場合とちがい、エキス製剤(顆粒状のもの)は含有量が少ないために強い炎症を阻止することが難しい場合も出てくるようです。
そんな場合には抗菌剤や消炎剤を併用するとよいと思います。
一般的には膀胱炎や尿道炎には「五淋散(ごりんさん)エキス剤」を中心として、
炎症の度合に応じて「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)エキス剤」や「竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)エキス剤」を一緒に服用すると一層の効果を得ることができる考えられています。
頻尿や排尿痛には「芍薬甘草湯エキス剤」、
おしっこの濃い場合には「猪苓湯(ちょれいとう)エキス剤」
血尿には「四物湯(しもつとう)エキス剤」の併用で効果をあげることが期待できます。
(松田昇、東洋医学研究家、薬剤師)