むかしむかしの話。
中国のとある村に夫婦が住んでいました。妻が婦人病を患い、肌がガサガサでそれこそ「すなかけばば」に変貌したのを機に、夫はある日こっそり逃げ出しました。今風にいうと蒸発ですね。
悲しんだ妻は人づてに山に生えているある薬草を煎じて飲めば必ず夫が帰ってくると聞き、山に入り薬草を探し出して煎じて飲み続けたところ、病が治ったばかりか誰が見ても以前より美しくなりました。
蒸発した夫は人づてに「おまえのところの奥さんは奇麗になり、元気になったぞ!」と聞き妻のところへいそいそと帰っていったとのことです。(中国古文献より)
妻は夫が帰ってきたのは、山から採ってきた名も知らない薬草のおかげだと、夫がまさに(当に)帰る薬草として「当帰(トウキ)」と名付けたというわけです。
トウキは“女性の宝”と言われる生薬(薬草)で更年期や月経トラブル系の処方にも使われますが、日本ではこの故事、すっかり忘れられています。
しかし、遠い遠い昔には、生薬と美容には接点があったことを知ることができるお話です。
さて、ここで、漢方(東洋医学)の基本を少し。
漢方の診たて(タイプの分類)には実証、虚証、その混合タイプの中間証があります。
診たてにはもちろん専門的な知識と経験が必要ですが、外見的には、骨格ががっちりした筋肉質で堅太りなタイプが多いのが「実証」、骨格が華奢でやせ型か水太りのタイプが多いのが「虚証」とされています。
この虚実の診たてに応じて、その人その人にあった生薬を処方するのが漢方(東洋医学)の基本です。
最近は虚実のことを知らないで、TV宣伝だけ見てドラッグストアに買いに来る人が多く、『虚の人』の処方を、どうみても『実の人』が買って帰るケースを見かけます。
ドラッグストアには薬剤師がいますので、セルフでパッと買わずに、必ず薬剤師に相談してから買うようにしてください。(薬剤師も西洋医学にかかわる薬学を学んだ人たちなので、必ずしも漢方に詳しいというわけではありませんが)
話は戻りますが、この「虚証」の人の処方で一番有名なのが、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)。身体を温め虚弱な体質を改善する効果があるとされています。
文字通り、当帰芍薬散には”美人薬草”の当帰(とうき)が配合されています。
ただし、当帰芍薬散の効果を感じることが出来るのは虚証(の傾向のある)人です。
ちなみに以前紹介したことのある防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は実証(の傾向のある)人に効果があるとされています。
漢方生薬を試したい方は、証の虚実に応じ自分に合った処方でないと効果がないということを覚えておいてください。
次回2回目、1月7日月曜日
(東洋医学研究家、薬剤師 松田昇。ゼロポジション)