前回まで(①、②、③)にお話した虚・実・寒・熱のお話。ちょっと難しかったかも。
専門家でも難しい話なので、これから時々少しずつ紹介してゆきますので、ゆっくりお付き合いください。
ひとつひとつの証は経験的に積み上げられて来たもので、結局、科学的で無いと言われればその通りです。
しかし名医と言われる人ほど経験的、直覚的に判断するものです。実際の処方では例外も多い、あくまでも原則論、基礎知識なのです。
虚・実・寒・熱の考え方を生活で応用する場合・・・皆さんは漢方で身体を温めるとか、冷やすといった言い方をしているのをご存知でしょうか?
その人の体質(証)にあわせて、身体を温める-冷やす、によって生薬のチョイス(処方)が変わります。
ごく簡単に言うと、『虚で冷の人』には身体を温める処方、『実で熱』の人は身体を冷やす(熱をとる)処方が基本となります。(もちろん例外もあります)
東洋医学の食事療法といえるのが薬膳ですが、薬膳でも日頃の食べ物を身体を温めるものと冷やすものに分けています。
ただし生薬の処方ほど厳密に守らなければならないものではありませんので、ご自分のその時々の体調に応じて-たとえば虚の傾向の人でも熱くてほてるときだってありますから、そんな時は身体の熱をとる食べ物を-食べたいものを普通に食べればよいのです。
身体を温める代表例では、とうがらしに含まれるカプサイシンには発汗や血行を促進して身体を温める働きがあります。(辛味成分のカプサイシンは、消化管への刺激が強いので、胃腸の調子が悪いときは避けたほうがよいでしょう)
◆かぶ、ネギ、ニラ、青じそ、しょうが、にんにく、赤唐辛子、たまねぎ、人参、カボチャ、納豆、などが温める食材の仲間。
◆種実類ではくるみ、栗、など
◆肉・魚介類では鶏肉や羊肉(ラム・マトン)海老、鮭、かつお、さば、いわし、など
◆もち米やシナモン、紅茶、なども身体を温める食材です。
身体を冷やすというのは、(暑さや炎症などによる)身体の熱をとることを意味します。
●この仲間にはきゅうり、とうがん、にがうり、トマト、なす、セロリ、もやし、すいか、メロン、キュウイ等があります。
●柿、梨、みかん、
●豆腐、春雨、麦や蕎麦、そうめん、
●わかめ、アサリ、かに、
●ミント、緑茶なども身体の熱をとる作用があります。
身体を冷やすものには夏が旬の食べ物が多く、それは厳しい夏の暑さに打ち勝つために自らの中に冷却力を備えているものと思われます。
身体を温める-冷やす目的での薬膳をいくつか紹介しましょう。
【温めて新陳代謝をよくする料理】
◎かぶと鶏肉の中国風炒め煮
かぶと鶏肉とかぶの他に、ねぎ、赤唐辛子、しょうがのみじん切り、片栗粉を使って仕上げるといいでしょう
◎ラムやマトンを使った肉料理(温かスープ、シチューなど)
子羊の肉をラム、成長した羊の肉をマトンと呼びます。
羊肉は柔らかくて消化がよく、脂肪分が少ないので肥満の心配も少ないです。
冷え症の人、寒がりの人、冷えによる様々な症状にお悩みの方にお勧め。
産後の体力の衰え、帯下等の婦人病や足腰の冷えて痛む方によいでしょう。
ただし身体を結構温める作用があるので、熱のある方や湿疹のある方、口内炎のある方には不向きです。
寒冷な北海道でジンギスカンが好んで食される理由は、身体の温め効果が高いからと推測されます。
【熱くてのぼせる時、身体の熱をとる料理】
◎春雨とカニのサラダ
春雨、きゅうり、大根、カニ(夏場はカニ缶)ドレッシングはお酢、ごま油、おしょうゆで。
◎夏野菜を乗せた冷奴
なす、きゅうり、みょうがを使った浅漬けを絹ごし豆腐に乗せ、削り節とショウガでいただきます。
熱くてのぼせる時は、肉料理などのこってりしたものや、味の濃い料理、辛味の強い料理は要注意です。(東洋医学研究家、薬剤師 松田昇)