前回、
1、漢方では、体質を実証と虚証、その混合形の中間証に分類すること
2、漢方処方は、体質(虚実)に合うように決定されてきたものが多く、虚実に合わない処方を服用しても効果がないこと(誤治)
3、したがって自分の体質、つまり自分の虚実のタイプぐらいは知っておく方が、漢方や薬膳を生活に効率よく取り入れることができる
と書きました。
では、どのようにして虚実の判断をするのでしょうか?
一般の人が自分自身を判断する時は、次の項目で、虚実のだいたいどちらかを判断できると思います。ただし、「だいたい」であること、つまり、それなりの誤差があることを前提としてください。(なぜなら、特に(4)、(5)、(6)は体調や生活スタイル、季節などによって変動するからです)
(1)一見元気がない
(2)言葉、挙動のおとなしい
(3)全体的に貧血気味
(4)さえない感じ
(5)全身が疲労する
(6)手足も冷えてだるい
(7)お腹の力がない
全項目に当てはまるような感じですと、ほぼ虚証、陰虚証(虚証の人の病気の状態)となります。逆にこれらの症状の裏側(全項目否定型)が実証という事になります。
参考までにゼロポジションのデータ(4000人、女性)によりますと、虚証の人は全女性の15~20%、実証の人は同20~30%、残りの50~60%が中間証だと予測されます。
もちろんこの程度で処方を決定するのにはあまりにも情報不足です。最適な処方や提案をするためには、さらにチェックを積み重ねてゆく必要があります。
なお、漢方では「病人の著わす生物反応としての症状複合を、医師がその治療の必然性に鑑みて捉える病の体質」たるものを証と呼びます。
したがって「全身疲労・手足のだるい感じ・手足は冷たくない」などの不定愁訴を重要視するところが西洋医学とは異なります。
そのため、(1)~(7)のような項目でチェックするのです。また顔や身体の肌の状態も重要な判断対象になります。
【名医の条件】
熟慮して処方をチョイスするには「ifとbut」の考え方が必要といわれます。
「もし(if)敵(病)がいたら、しかし(but)、そうはいうものの」
この判断こそが病に対する勝利の戦略とされます。
過去数多くの名医と称された人達は、このように考えて患者の最適処方を決めてきたのでしょう。数々の漢方大家の名言があります。
「実証に臨めばかえって虚証を尋ね、虚証に遇えば反って実証を求む」
「実なるが如くして虚なり。虚なるが如くして実なり。自得の域に達せざれば正鵠を失し易し」
専門家であっても虚実を含め証の判断の難しさを物語っています。
しかし名医になるほど直覚判断といって、『一瞬にしてその人の持つ情報を的確に把握する洞察力』を(経験と訓練によって)持ち備えていたといえます。
証を決める要因の拾い方、それによる処方の決定(チョイス)に名医の感が冴える!
ということです。
次回、「なぜ証の判断が難しいのか?」「熱と寒」について。(東洋医学研究家、薬剤師 松田昇。データサポートはゼロポジション)
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