貧血の症状別の処方について触れてゆきます。
貧血は、虚証~中間証の方によく見られます。
◆中間証の方の処方例
①帰脾湯(きひとう)
胃腸の弱い人で、過労による食不振、神経過敏で不眠等の症状のある方に効果があります。(東洋医学では食物を消化し、吸収することを「脾(ひ)」といいます。)
この処方は吐血や下血、血尿といった各部からの出血を止める働きがあり、出血に起因する貧血にはピッタリです。
※後述する四君子湯に、当帰などの生薬を加味したもの
②人参養栄湯(にんじんようえいとう)
体が虚弱で全身がだるく動悸や息切れ、寝汗などのある人向け。
皮膚がカサカサして、咳やたん、手足の冷えなどもある方の処方です。
大病の後や手術後の貧血などに有効で、微熱が続いて体力を消耗している人が体力を補うのに向いています。
③苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
尿の回数は少なく、動くと胃のあたりが「ポチャポチャ」音がするいわゆる「水毒」タイプの貧血症状の方に向く処方。
たちくらみやめまいが起こりやすく、むくみや冷え・耳鳴りなどが見られるタイプで上半身の水の巡りを良くします。
④六君子湯(りっくんしとう)
荒れた胃の粘膜を修復を促す作用があり、胃下垂や胃弱や胃炎の人に向いています。
みぞおちのつかえやおなかが張ったような感じがあり、食欲がなくて疲れやすい人の貧血症状に向いています。
◆虚証の方の処方例
①加味帰脾湯(かみきひとう)
先述の「帰脾湯」より体力のより衰えた方に合います。
体力が低下して疲れやすく、胸苦しさや不眠不安があり、動悸のある人の貧血に有効です。
②当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
婦人病全般におなじみの処方。
足腰の冷えや月経不順、月経痛のある人の貧血に向きます。
頭痛、めまい、肩こり等の症状もあらわれ、低血圧の方にも良いですね。
③四君子湯(しくんしとう)
先述の「六君子湯」に比べてより体力がなく、胃腸の働きが衰えて食べた物の吸収力が悪い場合に有効です。昼食後に眠くなる傾向もあることが目安です。
④四逆加人参湯(しぎゃくかにんじんとう)
慢性疾患で体力が低下して貧血となり、その結果手足の冷えや全身の冷えがひどいという人の処方。
おなかの張りや脈も弱く、みぞおちを押すと「ウッ!」と痛みを感じるといったタイプですね。
出血による貧血にも応用されています。
⑤十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
気力・体力ともに低下し、全身の倦怠感の強い方向きで胃腸が弱くて、いつも下痢気味で、悪寒や寝汗をかき、肌は潤いがなく乾燥している人の貧血症状に用います。
大手術の後などにも有効で、胃腸の衰えた人に用いる「四君子湯」と、貧血を伴う女性の症状に効果のある「四物湯」を合わせた処方になっています。
(東洋医学研究家、薬剤師、松田昇)